カウンセラーにとって大切なもの
カウンセラーにとって大切なもの ─ “心に寄り添う”という専門性
心理カウンセラーという仕事は、資格や知識だけで成り立つものではありません。
傾聴技法、アセスメント、心理学理論、コミュニケーションスキル。
これらは確かに重要です。しかし、実際にクライエントの前に座った瞬間、技法を操るだけの存在ではクライエントの心は開きません。
カウンセリングの現場で最も求められるのは、「人としてのあり方」です。
TKN心理サロンが大切にしてきたもの。
そして、多くのクライエントを支え続けてきたカウンセラーたちが共有している“本質的な軸”。
本記事では、「カウンセラーにとって大切なもの」を、実践的な視点でじっくり解説します。
プロフェッショナル心理カウンセラー 金崎健二
1. まず、“聴く”ではなく “受けとめる”姿勢
多くの方が誤解しますが、カウンセリングの中心にあるのは単なる「傾聴」ではありません。
・話を遮らずに聴く
・相手の気持ちを反射する
・要約し、確認し、深める
もちろんこれらは大事です。しかし、その前に必要なのは、
「この人は自分を否定しない」という安心感を提供できるカウンセラーであること。
クライエントは、話の内容以上に「相手の表情や空気」を感じ取りながら話しています。
・評価されるのではないか
・怒られるのではないか
・呆れられるのではないか
・弱さを見せたら軽蔑されるのではないか
こうした不安を抱えたままでは、心の深いところに触れることができません。
だからこそ、カウンセラーに必要なのは、
“まず、どんなあなたでも大丈夫です”という空気を、言葉ではなく態度で伝える力。
そのためには、自分自身の心の余裕、安定、自信。それらが基盤になります。
2. クライエントの「言葉の外側」に耳を澄ませる力
カウンセリングでは、言葉そのものよりも、
**その言葉の裏側にある「気持ち」「意味」「歴史」**が重要になります。
例えば……
「夫がムカつくんです」
「職場の人間関係がしんどいんです」
「子どもが言うことを聞かないんです」
これらの言葉には、表面に見える感情と、深層にある感情があります。
・感じてはいけないと思っている本音
・あきらめている願い
・気づいていない不安
・強くなりすぎた自己防衛
・語られてこなかった生育歴の痛み
表面的な悩みの“さらに下の層”にあるものに触れなければ、クライエント自身が本当の解決に近づくことはできません。
そのために必要なのが、
目の前の言葉をそのまま受け取るのではなく、その背景を感じ取る感性です。
これは、教科書には書かれていない「臨床感覚」。
経験によって磨かれる力であり、カウンセラーという専門職の“職人技”でもあります。
3. クライエントの人生を奪わない距離感
カウンセラーは、クライエントを助ける存在であっても、「解決してあげる」存在ではありません。
・指示しない
・上から目線にならない
・コントロールしない
・答えを押しつけない
これが重要です。
クライエントの人生を決めるのは、クライエント自身。
カウンセラーがすべきことは、答えを渡すのではなく、
**“自分で選べる状態へ戻るサポート”**です。
そのためには、適切な「距離感」が欠かせません。
近すぎると、依存を生む。
遠すぎると、安心が生まれない。
この絶妙な距離感を調整するために必要なのが、
カウンセラー自身の自己理解です。
自分が何に弱いのか、何に反応しやすいのか、自分の課題が何なのか。それを自覚していないと、クライエントとの距離は簡単に崩れます。
4. 自己一致 ─ 自分の心を偽らない勇気
カール・ロジャーズが示した「自己一致」。
これは、カウンセラーの基本でありながら、最も難しいテーマと言われています。
自己一致とは、“自分の内面と外面がズレていない状態”。
・笑っているけど心はイライラしている
・平静な表情をしているけど、心の中では拒絶している
・優しい声を出しているけれど、頭の中では批判している
こういうズレがあると、クライエントは確実に感じ取ります。
だからこそカウンセラーは、
**自分の心を深く見つめ、自覚し、受け入れ、整える作業(セルフワーク)**が必要です。
ひとの心を扱うということは、自分の心と向き合い続けるということでもあるからです。
5. 専門知識や技法は“心を支える道具”であり、目的ではない
心理学の知識、理論、技法。
これは非常に重要で、TKN心理サロンでもしっかりと教育しています。
しかし、技法は“目的”ではなく“手段”。
技法を使うためにクライエントがいるのではなく、
クライエントを前にしたときに、必要な技法を自然に選べるようになるためのものです。
・認知行動療法(CBT)
・交流分析(TA)
・ゲシュタルト療法
・家族療法
・ロジャーズの来談者中心療法
・発達心理学や脳科学
・トラウマ理論(内部感覚・身体感覚)
これらの理論と技法の「引き出し」を持つことは、クライエントの心を理解し、支えるために不可欠です。
ただし大切なのは、
「この技法を使おう」ではなく「この人には何が必要だろう」という視点。
技法中心になると、クライエントは置き去りになります。
6. クライエントを信じる力
多くの悩みは、
「自分を信じられないこと」
「本当の気持ちがわからなくなっていること」
から生まれます。
カウンセラーがクライエントよりも先に、
クライエントの可能性を信じることが重要です。
・できていないところばかり見ない
・弱さではなく、強さを見つける
・欠点ではなく、成長可能性に目を向ける
・失敗ではなく、経験の意味を読み解く
クライエントの自己肯定感は、
カウンセラーに“信じてもらえている”という経験の中で静かに回復していきます。
7. 継続して学び続ける姿勢
カウンセリングは、常に変化し続ける領域。
脳科学、発達心理、家族構造、メンタルヘルス、社会問題。
時代の変化に合わせて、必要な知識も変化していきます。
カウンセラーに求められるのは、
「もう十分学んだ」という姿勢ではなく、「まだ知らないことがある」という謙虚さ」。
これは、クライエントに向き合う姿勢にも直結します。
8. カウンセリングは“人と人”の関係で成り立つ
心理カウンセラーは、一見すると専門家のように扱われますし、実際専門家です。
しかし本質は、
ひとりの人間として、目の前の人の心に寄り添う仕事。
理論を理解しているだけでは足りず、
共感するだけでも足りず、
優しいだけではもっと足りません。
・受容
・共感
・自己一致
・専門性
・距離感
・信頼
・誠実
これらすべてが統合されて、初めて「カウンセラーというプロ」が成立します。
まとめ ─ カウンセラーにとって最も大切なのは“あなた自身の在り方”
カウンセラーとして技術を学ぶことは大切ですが、
クライエントが安心して心を開き、自分と向き合えるようになるためには、
カウンセラーの在り方そのものが治癒的な影響を与えます。
つまり、
カウンセラーとして成長するということは、“人として成長する”ということ。
TKN心理サロンが大切にしてきたのも、まさにこの部分です。
・心に余裕を持つこと
・自分を受け入れること
・人と深く関わる力を磨くこと
・学び続ける姿勢を持つこと
これらを積み重ねていくことで、
「あなたに話したい」「あなたに聞いてほしい」というクライエントが増えていきます。
カウンセリングは技法ではなく、“関係の中で起こる癒し”。
だからこそカウンセラーにとって一番大切なのは、
心に寄り添う“あなた自身”なのです。

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