大阪のカウンセラーの学校:心理ゲームの回避法
TKN心理サロンブログ:心理ゲームの罠。交流分析から考える心理ゲームの回避方法
人と関わる中で、なぜかいつも同じような不快な結末を迎えてしまう人間関係のパターンはありませんか。 最初は親密に話していたはずなのに、気づけば相手から責められている、あるいは良かれと思ってアドバイスしたのに、最終的に相手が怒り出して自分が悪者にされてしまう。 こうした、繰り返される不毛で後味の悪い対話のパターンのことを、心理学の「交流分析(Transactional Analysis)」では「心理ゲーム」と呼びます。
心理ゲームは、私たちが無意識のうちに仕掛け、また仕掛けられてしまう人間関係の罠です。 この罠にハマると、お互いに傷つき、疲弊し、不信感だけが残ることになります。 今回は、この心理ゲームがなぜ起こるのか、そのメカニズムを解説し、「はい、でも(Yes, But)」や「キックミー(Kick Me)」といった代表的な具体例を交えながら、ゲームを未然に防ぎ、健やかなコミュニケーションを取り戻すための具体的な回避方法を詳しくお届けします。
1.心理ゲームとは何か:交流分析の視点
心理ゲームという言葉は、アメリカの精神科医エリック・バーン(Eric Berne)が開発した心理学理論「交流分析」の核心的な概念の一つです。 ここで言う「ゲーム」とは、楽しい遊びのことではありません。 「無意識のうちに行われる、表面上はもっともらしく見えるが、最終的にはお互いに不快な感情(ラケット感情)を味わって終わる、繰り返される人間関係のパターン」と定義されています。
心理ゲームには、いくつかの明確な特徴があります。 まず、第一に「無意識に行われる」ということです。 誰も「今から相手を不快にさせてやろう」と意図して始めているわけではありません。 表面的には建設的な会話をしているように見えて、心の奥底(潜在意識)では別の動機が働いています。 第二に「必ず同じようなプロセスをたどり、同じような不快な結末(結末の予測可能性)を迎える」ということです。 そして第三に、ゲームが終わった後には、強烈な後味の悪さ、怒り、悲しみ、罪悪感といった「ラケット感情」が残ります。
では、なぜ私たちはこのような不快な結果をもたらすゲームを、わざわざ繰り返してしまうのでしょうか。 その最大の理由は、私たちが生きる上で不可欠な「ストローク(存在認めの刺激)」を得るためです。 人間は、肯定的なストローク(褒め言葉や愛情ある関わり)をもらえないとき、無視されるよりも、否定的なストローク(怒られる、責められる、同情される)であっても、それを求めてしまう習性があります。 心理ゲームは、歪んだ形であっても確実に相手からの強烈な関わり(ストローク)を引き出すことができるため、無意識の生存戦略として繰り返されてしまうのです。 また、幼少期に形成した「私はダメだ」「他人は信じられない」といった否定的な人生脚本(生き方のシナリオ)を正当化するためにも、このゲームが利用されます。
2.心理ゲームの構造:ドラマツルギー(劇的変化)
心理ゲームがどのように展開し、破綻していくのかを説明するために、交流分析では「ドラマ三角形(Karpman Drama Triangle)」というモデルがよく使われます。 ゲームに登場する人物は、無意識のうちに次の3つの役割のいずれかを演じており、物語の途中でその役割が劇的に逆転(スイッチ)することでゲームが成立します。
1、迫害者(Persecutor):相手を責める、批判する、コントロールしようとする役割。
2、犠牲者(Victim):自分は無力だ、かわいそうだと思い込み、他人に依存したり責められたりする役割。
3、救済者(Rescuer):頼まれてもいないのに相手を助けようとする、過保護に関わる役割。一見善人ですが、相手を「無力な存在」のままにしておくことで自分の存在意義を保とうとします。
心理ゲームの恐ろしいところは、この役割が固定されていない点にあります。 例えば、救済者が犠牲者を助けようと必死にアドバイスしているうちに、犠牲者が突然怒り出して迫害者へと変貌し、救済者だった人が一転して犠牲者に落とされる、というような「役割の逆転」が起こります。 この逆転が起きた瞬間に、お互いに強い不快感を味わうことになります。
3.代表的な心理ゲームの具体例
心理ゲームには数十種類以上のパターンがあるとされていますが、日常生活やカウンセリングの現場で特に頻繁に見られる代表的なゲームを2つ、具体例を挙げて詳しく見ていきましょう。
① 「はい、でも(Yes, But)」
心理ゲームの中で最もポピュラーなものが、この「はい、でも」ゲームです。 表面上は「困っているのでアドバイスをください」という態度(犠牲者)で近づいてきますが、相手がどんな提案をしても「はい、でもそれは〇〇だから無理なんです」とすべて却下し、最終的にアドバイスした側を無力感や苛立ちに追い込むゲームです。
【具体例:職場の先輩と後輩の会話】 後輩:「先輩、最近仕事が全然終わらなくて残業ばかりなんです。どうしたらいいでしょうか」 先輩(救済者として登場):「大変だね。それなら、午前中のうちにタスクの優先順位をつけてスケジュールを組んでみたらどう?」 後輩(ゲーム開始):「はい、でも午前中は急な電話対応が多くて、スケジュール通りには進まないんです」 先輩:「なるほど。じゃあ、集中したい作業のときは、電話対応を他の人に代わってもらえるようにチームで相談してみたら?」 後輩:「はい、でもみんな自分の仕事で忙しそうだから、そんなこと頼めません」 先輩:「じゃあ、思い切って課長に業務量の調整を直訴してみるのは?」 後輩:「はい、でもそんなこと言って評価が下がったら嫌ですし、課長も忙しそうですから」 先輩(イライラしてくる):「じゃあ一体どうしろっていうんだよ!自分で考えるしかないだろ!」 後輩(悲しそうな顔をして沈黙する、または心の中で『やっぱり誰も私の気持ちを分かってくれない』と思う)
このゲームにおいて、後輩の表面上の目的(社会的交流)は「仕事を効率化するための解決策がほしい」ですが、心の奥底の目的(心理的交流)は「あなたの出すアドバイスをすべて論破し、あなたが無力であることを証明する。そして自分は変わらなくていい正当性を得る」というものです。 先輩は良かれと思って助けよう(救済者)としましたが、最終的に怒り出してしまい(迫害者)、後輩は「やっぱり自分は分かってもらえない(犠牲者)」といういつものラケット感情を手に入れます。 先輩側も「せっかくアドバイスしたのに徒労に終わった」という強い無力感と苛立ち(犠牲者への転落)を味わうことになります。
② 「キックミー(Kick Me:私を蹴って)」
このゲームは、無意識のうちに相手が怒り出すような行動や発言、ミスを繰り返し、最終的に相手から「お前は何をやっているんだ!」と怒られたり、見捨てられたりする状況を作り出すゲームです。 文字通り「私を蹴ってください」という看板を背中に背負っているかのように振る舞います。
【具体例:恋愛関係・夫婦関係】 あるパートナーが、相手が大切にしている記念日をわざと、あるいはうっかり忘れたり、相手が「これだけはしないで」と言っていた約束を何度も破ったりします。 最初のうちは相手も優しく許してくれますが、何度も繰り返されるうちに、ついに堪忍袋の緒が切れて激怒します。
相手:「いい加減にして!何度言ったら分かるの?もうあなたとは一緒にいられない!」 本人:「そんなに怒らなくてもいいじゃないか。どうしていつもそうやって僕を責めるんだ」
この本人の心の底には、「私はどうせ人から嫌われる人間だ」「誰も私を本気で愛してはくれない」という根深い人生脚本があります。 自ら相手の地雷を踏みに行くような行動をとることで、予想通り相手から怒られ(キックされ)、「ほら見ろ、やっぱりあの人も僕を嫌いになった。思った通りだ」と、自分の歪んだ信念を確認して安心しているのです。 怒った側は迫害者に仕立て上げられ、本人は可哀想な犠牲者のポジションに収まります。 しかし、その結末は孤独であり、お互いに深い傷を負うことになります。
4.心理ゲームがもたらす恐ろしい罠
心理ゲームの恐ろしさは、それが一度始まると、まるで自動プログラムが作動したかのように、お互いが引きずり込まれていく点にあります。 ゲームがもたらす主な弊害は以下の通りです。
エネルギーの劇的な消耗 ゲームに関わると、時間と精神的エネルギーを膨大に消費します。会話が終わった後に、ぐったりとした疲労感だけが残り、生産的なことは何も生み出されません。
人間関係の破綻と信頼の喪失 何度もゲームを繰り返すうちに、周囲の人は「あの人と話すといつも嫌な気分になる」と気づき、徐々に離れていきます。結果として、本人は深刻な孤立に陥ることがあります。
自己成長の停止 「はい、でも」の例からも分かるように、ゲームの目的は「現状維持」や「自分の歪んだ前提の証明」であるため、本当の意味で問題が解決されることはありません。何年経っても同じ悩みを抱え、同じ不満を言い続けることになります。
5.交流分析から考える心理ゲームの回避・脱出方法
では、この無意識の人間関係の罠から抜け出すにはどうすればよいのでしょうか。 交流分析の理論をベースにした、具体的な回避方法をステップに沿って解説します。
ステップ①:ゲームのパターンに「気づく」
心理ゲームを止めるための最も重要で、最も難しいステップは、自分がゲームに巻き込まれている、あるいは自分がゲームを仕掛けているという事実に「気づく」ことです。 会話の最中、あるいは会話の後に、以下のようなサインがあれば、それは心理ゲームの兆候です。
1、「あ、またこの展開だ」と既視感を覚える。
2、胸のあたりがモヤモヤする、イライラする、急に悲しくなるなどの「後味の悪さ(ラケット感情)」がある。
3、相手をコントロールしようとしている、あるいは相手に振り回されていると感じる。
まずは、自分の人間関係において「いつも同じパターンで終わる不快な会話」がないかを棚卸ししてみましょう。パターンを認識できれば、ゲームの作動を半自動的に止める足がかりができます。
ステップ②:ストロークの求め方を変える(健康的な関わりを持つ)
ゲームをしてしまう根本的な原因は、前述の通り「不快な形であってもストローク(関わり)が欲しいから」です。 したがって、日頃から心理ゲームに頼らなくても、お互いに肯定的なストロークを素直に交換できる関係性を築いておくことが予防策になります。
1、相手の良いところを言葉にして褒める。
2、感謝の気持ちを伝える。
3、自分の寂しさやサポートが欲しいという気持ちを、ゲームという遠回しな手段ではなく、「今、少し話を聞いてもらえる?」とストレートに表現する(これを交流分析では『親密さ:Intimacy』と呼びます)。
肯定的なストロークで満たされている人は、わざわざ他人に突っかかったり、可哀想な自分を演出して同情を引いたりする必要がなくなります。
ステップ③:ドラマ三角形の役割(ポジション)に入らない
誰かがゲームを仕掛けてきたとき、あるいは自分が仕掛けそうになったとき、ドラマ三角形の3つの役割(迫害者・救済者・犠牲者)のどこにも身を置かないように意識します。
1、「救済者」にならない:相手から悩みを打ち明けられたとき、頼まれてもいないのに「私がなんとかしてあげなきゃ」と過剰にアドバイスをしないことです。相手の力を信じ、一歩引いて話を聞く姿勢を保ちます。
2、「犠牲者」にならない:「どうせ私なんて」「誰も助けてくれない」という態度で、他人に自分の人生の責任を丸投げしないようにします。
3、「迫害者」にならない:相手のミスや弱点を見つけて、正論で徹底的に叩きのめそうとする衝動を抑えます。
ステップ④:大人の自我状態(Adult)で対応する
交流分析では、人の心には「親の心(P)」「大人の心(A)」「子供の心(C)」という3つの自我状態があるとされています。 心理ゲームは、感情的な「親」や「子供」の心が暴走し、裏のメッセージを送り合うことで成立します。 ゲームを回避するには、客観的、論理的、かつ冷静に事実を認識する「大人の心(A)」を起動させることが不可欠です。
例えば、「はい、でも」のゲームを仕掛けられたら、以下のように「大人の心(A)」で対応を切り替えます。
【「はい、でも」の回避例】 後輩:「はい、でも午前中は急な電話対応が多くて、スケジュール通りには進まないんです」 先輩(これ以上アドバイスするとゲームにハマると気づく):「そっか、午前中の電話対応がネックなんだね。じゃあ、この状況を解決するために、〇〇さんはどうしたらいいと思う?」
このように、アドバイスを上から与え続ける(救済者)のをやめ、質問を相手に投げ返すことで、相手を「自分で考える大人の状態(A)」へと引っ張り上げます。相手が「でも……」と言い訳を続けようとしても、「そっか、難しいね。何か名案が見つかったら教えてね」と、ゲームの土俵からサラリと降りてしまうのが正解です。
ステップ⑤:裏面のメッセージ(隠された意図)を無視し、表面の事実にのみ応答する
心理ゲームは、言葉通りのメッセージ(社会的レベル)の裏に、別の意図(心理的レベル)が隠されている「裏面交流」によって起こります。 ゲームを成立させないためには、裏のメッセージを相手にせず、表面の言葉や事実だけを淡々と扱うことです。
「キックミー」を仕掛けてくる人が、わざとこちらを怒らせるようなルーズな態度をとってきたとしても、感情的に激怒する(迫害者になる)のではなく、「今回の提出期限が遅れた件について、次からはどうリカバリーするかを話しましょう」と、業務上の事実のみに焦点を当てて冷徹かつ冷静に対処します。相手は「怒られる」という歪んだストロークをもらえなくなるため、ゲームを続ける気失せ、別の方法を模索せざるを得なくなります。
6.おわりに:自分を認め、他者を認める「I'm OK, You're OK」へ
心理ゲームを繰り返してしまう背景には、私たちが心の奥底に抱えている「私は不完全だ」「どうせ誰も分かってくれない」という、自己や他者に対する否定的な姿勢があります。 しかし、心理ゲームの仕組みを知り、自分の行動パターンを客観的に見つめ直すことができれば、その罠は必ず破棄することができます。
大切なのは、ゲームの引き金を引きそうになった自分を責めることではなく、「あ、今ゲームを始めようとしていたな」と気づき、大人の心で立ち止まることです。 そして、自分も相手も等しく尊重されるべき存在であるという「I'm OK, You're OK(私はOK、あなたもOK)」の精神へと、コミュニケーションのあり方をシフトさせていくことにあります。
日常の会話の中で、もし「いつもと同じ嫌な空気」を感じたら、一呼吸置いて、ドラマ三角形の舞台から一歩外へ踏み出してみてください。 それだけで、あなたを取り巻く人間関係の風通しは、劇的に良くなっていくはずです。 不毛なゲームを終わらせ、本物の「親密な関わり」に満ちた豊かな人間関係を、ここから一緒に築いていきましょう。
TKN心理サロンでは、カウンセラー養成講座を通じて心理学を教えています。自分の思考のクセ、悩みの根っこなど勉強しながら気づいていく講座です。
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プロフェッショナル心理カウンセラー
金崎健二
大阪なんばの心理カウンセリングスクール-TKN心理サロン|大阪・難波(なんば)にある心理カウンセラー養成講座/育成スクール

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